IT導入の心得②:まず“目的”を決めよう。ツール選びはそのあとで
最近では「DX」「業務効率化」「自動化」といった言葉が飛び交い、あちこちの会社でITツール導入の話が持ち上がっています。ところが、現場でよく見るのが——「何をしたいか」よりも「どのツールを入れるか」から始まってしまうケース。
この順序が逆転していることこそが、IT導入がうまくいかない最大の原因です。
「ツール導入ありき」では現場が混乱する
たとえば「Chatツールを入れたらコミュニケーションが活性化するはず」とか、「クラウド会計にすれば経理がラクになる」といった話。もちろんそれ自体は間違いではありません。
でも、導入後に「使われない」「前より手間が増えた」となるケースも多いのです。
なぜか。それは“目的”が曖昧だからです。
「活性化する」「ラクになる」といった抽象的な目的では、導入の基準も運用ルールも曖昧になり、結果として定着しません。ツールが悪いのではなく、“導入の動機”がふわっとしているのです。
まず決めるべきは「どんな課題を解決したいか」
IT導入を成功させる第一歩は、現場の課題を具体的に言葉にすることです。たとえば次のように整理してみるといいでしょう。
- 社内の情報共有が遅い → どこで滞っている?
- 見積や請求書の発行に時間がかかる → 何に時間が取られている?
- 顧客管理が属人化している → 何がバラバラになっている?
課題を“見える化”することで、ツールに求める条件も明確になります。逆にここを飛ばしてしまうと、どんなツールを入れても根本は変わりません。
ツール選びは「目的→機能→費用」の順で考える
課題がはっきりしたら、ようやくツールの出番です。選定の流れは次の3ステップが基本です。
- 目的を明確にする(何を改善したいか)
- 必要な機能を洗い出す(どんな機能が必須か)
- 費用と運用体制を検討する(誰が、どの範囲で使うか)
この順番を守るだけで、選定ミスは大幅に減ります。「とりあえず有名だから」「営業が勧めてきたから」ではなく、自社に本当に必要なツールを見極める目が養われるのです。
“導入がゴール”ではなく“運用がスタート”
もう一つ大事なのは、導入が終わりではないということ。ツールを入れた瞬間に業務が変わるわけではありません。むしろ、そこからが本番です。
実際には、
- 現場の使い勝手を確認しながら設定を微調整する
- 利用ルールを共有し、習慣化させる
- 定期的に「本当に効果が出ているか」を見直す
といった地道なステップが必要になります。目的を決めておくことで、こうした運用判断にも“軸”が生まれます。
ツールは「目的を叶えるための手段」にすぎない
IT導入の相談を受けていると、「どのツールを使えば正解ですか?」という質問をよくもらいます。でも、その答えは一律にはありません。
同じ会計ソフトでも、
・経理が一人で全部入力する会社
・各部署で分担入力する会社
では最適なものが違います。
つまり、正解は自社の目的によって変わるのです。目的を明確にして初めて、“どのツールが自社に合うか”を判断できます。
まとめ:目的を決めれば導入後の迷いが減る
IT導入を成功させるコツは、「何を入れるか」より「なぜ入れるか」に時間を使うことです。
- 現場の課題を言葉にする
- 解決したいことを明確にする
- その目的に合うツールを選ぶ
このプロセスを踏めば、ツール導入は失敗しません。むしろ、導入後の運用判断にも一貫性が生まれ、「続けるかやめるか」の迷いが激減します。
IT導入の心得シリーズ、第2回は“目的の設定”でした。次回は、「目的を現場にどう共有するか」について掘り下げます。